Blog黒田院長のブログ

2021.02.11

011 三題噺

今日聴いていた音楽 Louis Armstrong ‘As Time Goes By’

ちくしょう。前回からの繋がりでは無いが、YouTubeのThe First TakeでLisaさんの「炎」を見ては泣けてくる。
オジサンの涙腺は老化して弱っているのだ。それにしてもこのThe First Takeってコンテンツ、凄くないか?
アーティストのこんな本気を素晴らしい高画質と高音質で、しかも無料で楽しめるなんてトンでも無い世の中になったもんだ。

前回落語について書いた。あの世界には「三題噺」という縛りプレイが有る。
客席のお客さんにお題を三つ出してもらって、その場で噺を組み立てて高座にかける、想像するに相当スキルを要する落語の一手法である。その場で話を組み立てる、インプロヴィゼーションであり、要するにジャズなんじゃなかろうか。
我々が現在知り得る三題噺の中で個人的に最高傑作と思えるのは「鰍沢-かじかざわ」であろう。
江戸から明治にかけて活躍した三遊亭圓朝という名人が、「卵酒」「鉄砲」「毒消しの護符(お守り)」というたった3つ、だけどどう考えても脈絡の無いお題から作り上げた物語。物語の詳細はネットで調べて貰うとして、これを名人上手が高座にかけると聞き手の我々はあたかも雪がしんしんと降り積もる真冬の鰍沢を主人公共々恐ろしい女に追われている気分になる。前回もチラリと書いたが、やはり音源が現存していて我々が聞ける中では圓生師匠のが最高のように思われる。

大体私の話は外来診療中も脈絡無くとりとめも無くあちらこちらへ脱線して行くのであるが、ここであろうことか映画「カサブランカ」なのだ。もう何十回、下手すれば何百回見たか分からない、自分にとってはゴールデン・シネマ・アワード100選には間違いなく入る映画。太平洋戦争が終わって戦時中は敵国の映画として封印されていた此の作品が上映された時、我々のお父さん世代はきっとこの極上の世界に触れて酔い痴れたに違いない。と言ったその舌の根が乾かぬうちに言わせてもらえば、イングリッド・バーグマン演じるイルサ・ラント、ひでぇ女である。「この顛末の全ては君が旦那さん死んだって勘違いしちゃったからじゃないかい」、、んでハンフリー・ボガート演じるリックは流行っている自分の店を胡散臭い同業者に売り、ドイツ軍の将校を射殺し、あまつさえ警察署長にお目こぼしして貰ったかもしれないがしばらく逃亡生活をしなきゃならない。それもこれも戦時下のパリでイルサに出会ってしまったから。ファム・ファタールでしょ貴女は。んで、またこのイルサがもう二人の男の間でぶれ、揺れまくるのである、なのに。全盛期バーグマンの美しさ、ボギーの渋味、抜け目ないが意外に背骨の筋が一本通っているクロード・レインズ(名優だったなぁ)の警察署長、憎ったらしいドイツ軍のストラッサー少佐、忘れちゃいけないピアノ弾きのドゥーリィ・ウィルソンとリックの店の太っちょ支配人。もう全てが美味しい鍋物のように渾然一体となって化学反応を起こし、やっぱりオジサンの涙腺を刺激しにかかるのだ。赤ワイン飲みつつ「そんな昔の話は覚えていない」「世界中に星の数ほど酒場は有るのに、何で俺の店に来たんだ」「君の瞳に乾杯」なんて数々の名ぜりふに酔いながらふっと気付いた。これはやはり良く出来た三題噺なのだ。「レジスタンス」「盗まれた旅券」「雨の待ち合わせ駅に来なかった女」。くぅー。痺れるじゃないか。古今東西、才能ある作り手はどんな三題噺からも豊かなストーリーを紡げるのだな、という、何ともあちこちに散乱しまくった今回のお粗末至極。

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