Blog黒田院長のブログ
2025.08.21
- 063 お盆休みを有難うございました。
今日聴いていた音楽
‘Lovin’You‘ Minnie Riperton 他先週はお盆のお休みをいただいていた。何人かの方から「来たけど閉まってた」とお叱りを受けたが、誠に済まないことである。5月に祖母の法事を済ませていたのを言い訳に1週間強の休み期間、何をしていたかと言えばひたすら本を読み、映画を見て酒を飲んでいた、つまりいつもと大して変わらん日々である。時間が有ったおかげで読む本と見た映画が多かっただけで、実にどうも映えない。歳をとって唯一良いことは昔読んだ本や映画を忘れてることで、下手するとミステリーを再読してもギリギリまで犯人を忘れていたりする。つまり一粒で二度美味しいわけだ。ん、あまり良くないか。
「銀河帝国の興亡」がアップルの資本で遂に「ファウンデーション」としてドラマ化され随分経つが、いかんせん読んだのがあまりにも昔な所為かストーリーの展開を追うのが大変で、シーズン3の現在に至るまで登場人物の交通整理に四苦八苦している。そこから古典SFのマイブームが始まってハインライン、アーサー・C・クラーク、アシモフなどを書庫から引っ張り出して読み返していた。もう何度読んだか分からないが、ハインラインの「夏への扉」は決して猫好きではない私にとっても実に素晴らしい。どうやら海外ではハインラインというと「異星の客」や「月は無慈悲な夜の女王」、「宇宙の戦士」といったハードめな作品が人気らしいが日本ではあの読後の爽快感からダントツ「夏への扉」ではなかろうか。
これをアニメでやるのか、と打ちのめされたのがAmazonプライムのお勧めに上がっていた「タコピーの原罪」だ。まるで幼児のいたずら書きの様な宇宙人の造形といいぶっ飛んだオープニング曲といい、この作品のターゲット層からどう見繕っても私は外れているのではないかと疑い始めた第一話の後半からストーリーはとんでもない展開を見せ、6話完結の短さも相まって最後まで見てしまった。家庭崩壊や子供同士のいじめという深刻なテーマをアニメ仕立ての一見ファニーな外皮で包んで観客に突きつけるのはとても賢く、我々に考えるきっかけを与えてくれる鋭い短剣と見えた。それにしても主人公しずかちゃん役の声優さん、凄い仕事をしていたな。
以前から見たいと思ってウォッチリストに入れていた「怒り」と「護られなかった者たちへ」の邦画二作品。「怒り」は吉田修一氏の本を2016年に李相日監督が映画化したもの。「護られなかった者たちへ」は中山七里氏の原作を瀬々敬久監督が2021年に実写化した。どちらも邦画界を代表する役者さんが鎬を削っていて見応えが有り、思わず知らず前のめりに見入ってしまった。最近はお見かけしないようだが「怒り」における宮崎あおいという、当代有数の稀有な女優の演技については幾ら賞賛しても言葉が足りないと思う。
このお盆休み、両手を挙げて敬意と感謝を送りたいのはようやく見られた「侍タイムスリッパー」に尽きる。もう一昨年になるそうだが、単館興業の自主映画にも関わらずあっという間に口コミで評判が拡がり大ヒットした、いわば伝説的な作品だ。何が最高って滅びゆく時代劇への愛、そこから更に映画という総合芸術に対する愛がもうボタボタ滴り落ちるほど溢れてるのだ。監督さんが借金してようやく2000万円をかき集め、彼の書いた脚本の面白さと心意気に共鳴した京都太秦撮影所の時代劇スタッフが全面的に協力した映像は自主映画に不可避の安っぽさを殆ど感じさせない。特に最後の殺陣シーンは相当多くの時代劇を見てきたと自負する私とてちょっと記憶に無いレベルの凄まじい緊張感だった。そこに至るまでの対立を盛り上げる周到な監督の演出が有って成り立っているこの映画のクライマックスは、失礼ながらお二人ともあまり存じ上げない俳優さんなのもプラス方向に作用して、本当に幕末を生きた侍たちが斬るか斬られるかの殺し合いを目の前で繰り広げてるのじゃないかと錯覚するくらい息を呑む場面を作り出していた。ラストの展開は賛否有るようだがそれも優れた映画の勲章で、笑って泣いてまた笑って、終わった後は自室で独りスタンディングオベーションだった。
まあこうやって私のお盆は終わった。皆さんはいかが過ごされたのだろうか。