Blog黒田院長のブログ
2023.06.03
- 047 エクス・マキナ
今日聴いていた音楽
「人生のメリーゴーランド」ハウルの動く城より
by Grissini Project 他
Ex machina、とはラテン語で「機械仕掛けの」を意味するそうだ。
更にdeus「神」という単語を加えたDeus ex machina、とは機械じかけの神、そこから派生して演劇などでのご都合主義的ハッピーエンドを指す言葉だと聞く。私はこの単語を聞くと、通俗的過ぎるが2015年公開の「エクスマキナ」と言う映画をすぐに思い浮かべる。お前は思考の原料を映画からしか得ていないのかと叱られるかもだが、この手のSF映画が大好きなのだから我ながら仕方がない。
ネタバレしない範囲でこの映画の概略に触れるとすれば、人工知能が現在よりもう少し進んだら確かにこういうことがあり得るだろうという妙に現実的な物語である。終盤とても衝撃的なシーンがあるのだが、人工知能を備えたアンドロイドならきっとこういう表情でこういう行動をとるのだろうって恐怖を私は感じた。そもそもヘテロセクシュアルな男性ならどう抗ってもアリシア・ヴィキャンデル演じるアンドロイドに「惚れてしまうやろ」としか思えず、当然それが愚かな人間性の罠であるのは制作側の意図であって、人工知能を備えたアンドロイドには冷徹な行動原理があり、人間の情緒的かつ矛盾に満ちた部分とは全く相容れないものだと語っている。
最近AIがついに人間を超える「シンギュラリティ」を迎えたかもというChat GPTの登場を目の当たりにして、知性を備えたアンドロイドの医療者が我々人間の医者を駆逐する未来像がついに見えたかもしれないと思っている。臨床医療の大半はそもそも膨大な知識体験の積み重ねであって、こと診断行為に限れば、それこそ広い医療情報の大海を自由かつ人間では不可能な短時間で渉猟出来るコンピューターに到底敵うものでは無い。診断の正確性はさておいても最大の利点は彼らに休む必要が無いことであって、それこそ究極の24時間365日の救急医療が完成するのじゃないかと夢想する。繁華街のあちこちに見かける証明写真の自動販売機やゲームセンターのプリキュアっていうのかな、あの撮影ブースの様に、生体の各種センサーを備えた医療ポッドに入ってAIに相談すると的確な診断をしてくれて自動販売機から処方箋が出て来る。勿論それじゃ不安な人や、まだまだロボットには無理な外科的処置が必要な人は病院にかかって人間の医師に診て貰う、結果的に救急医療に携わる医療者の負担が減って、何よりも横柄な人間の医者(おっと、これは己の罪の自白か?)に診て欲しく無い人々の福音になると思う。AIの進化に我々人間の医者が伍していく方策は何かと思索するに、流石にまだまだ機械には無理な人間の情を汲み取ることに尽きるかとも思う。客観的で冷徹な診断を求める、なおかつ待たなくて良い医療を求める人はAI医療を、情に揺れることも有るが時には上手いこと安心が得られるかも知れぬ医療を求める人は人間の医者を選ぶ、そんな時代がわりと直ぐそこまで来てるんじゃないか、私はそう考えている。
「AI医師ならお待たせしません、人間の医師なら1時間待ちです、診断精度はあまり変わりませんし、AIは不機嫌になったりしませんし、お好みでルックスも男女選べます。更に今なら期間限定でアイドルXXさんのアバターが診察しますよ!」なんてセールストークで患者が診断ブースを選ぶ時代、それがユートピアなのかディストピアなのか分からないがそう遠からず実現するんじゃないか。