Blog黒田院長のブログ

2023.01.22

041 メンタルサポート

今日聴いていた音楽
Donald Fagen
‘I.G.Y’ 他
 昨年末頃から自分のYouTubeアカウントに若年女性被害者支援団体の疑惑に関する動画が沢山上がって来て、何だかあれよあれよのうちに極めて大きな流れになっている。今までそんな世情に疎かった私は、世の中にはこんな問題も有るのかと気付かされ、また現在進行形で驚かされている。
 何を隠そう、と言って隠しようも無いが私は簿記や会計が苦手である。自院の税理士さんと15分会話していると頭痛と吐き気がしてきて「すいません、先生の宜しいようにお願いします」と逃げ出して飲みに行ってしまう。したがって俎上に上がっているこの団体に不正経理や公金の不適切な処理が有るのかどうか分かる術が私には無く、またこれだけ多くの人々が関心を持たれているのであれば各方面からキチンと然るべき対処がなされるであろうから、したり顔で後乗りいっちょ噛みする気は一切無い。でありながら私にこの文章を書かせる梃子となるのは、この出来事に関連する動画で初めて知った「若者メンタルサポート協会」という団体の存在である。親は信頼出来ず他に寄る辺も無く、頼る者とて無い孤立無縁の若者を支援するために毎日24時間Lineで相談を受け付けているというだけで物凄い労力だが、更に一体全体何が驚いたって理事長の小杉沙織氏以下5人居られる理事と40人程の相談員の皆さんが全員無報酬、お給料ゼロでこの事業を運営されているという、それって大丈夫なのか、と公示されている資料を見ると本当に本当なのだ。
 消化器外科医出身の私とて、二十代や三十代の頃は一日寝ずに働いて、夜間の当直をこれまたほぼ寝ないでこなし、次の日も夜まで働いて、そんな生活は普通にこなしていたが、それだって一応大学病院から当直料が出ていた。一晩4000円だったが。明かりの消えた東京タワーを毎日のように窓から眺めて「俺たち時給換算だと学生のバイト以下だな〜」なんて自嘲してたっけ、どうもお金の話になると口調が恨みがましいね。今ほどコンビニは普及していなかった時代で、夜遅くに医局へ戻っても院内の飲食店は全て閉まっていたからすぐ近くに夜毎店を出している屋台のラーメン屋に食べに行ったり、夜中の2時までやってる中華料理店で出前を頼んだり。一緒に当直している先輩が奢ってくれたりすると彼の一晩分の当直料が吹っ飛んでしまったものだ。いくら何でも若い医者の当直料が安過ぎるからせめて一晩8000円にしよう、と大学経営陣の誰かが主張したらもっと偉い人から「どこの世界にいきなり給料が倍になる会社が有るのだ!」と怒鳴られてその議題は雲散霧消した、なんて可笑しい様な笑えない様な都市伝説が四半世紀前にはまことしやかに流布していたものだ。ああっと、また話が脱線してしまった。
 何かと世知辛いこの現代にも、困っている若者を昼夜問わず手弁当で助けたいというこんな人々が居ることに私は深い感銘を覚える。集中治療室で急変する外科手術後の患者さんと同じレベルで若者のメンタルヘルスは平衡を欠きかねない。場合によっては30分、1時間を争う事態とて容易に想像できてしまう相談事に携わる、それは並大抵の覚悟では済まないと、今は段々そんな無理も効かなくなってきた私は慮るものだ。
 我々の行く道には絶え間無く礫が飛んで来る。都度の時流で逆風も吹き、例えば景気に煽られて浮き沈みも有れば心身を病むことも、あるいは思わぬ所から誹謗中傷が襲って来るかもしれない。時に粗く時に細かく、その切っ先は肉を拉ぐほど重く鈍く、もしくは骨も裂くほど尖っていたり、そうやって理不尽に削ってくる砥石に磨かれても光るのはやっぱり本物の宝石しか無いのでは、これは勿論最後は自戒も込めて試されるよな、と切実に感じた次第だ。