Blog黒田院長のブログ

2022.12.16

039 好きな映画 その1

今日聴いていた音楽
Tears for Fears ‘Shout’他

 この年末に来て好きな洋画ベスト3を選べ、というお題を先輩から頂いてハタと考え込んでしまったのです。とにかく思い浮かぶ作品を片端から並べたら「幸せを数えたら片手にさえ余る」のサチコじゃ無いが100本でも足りない。何と言ってもベスト3となればただ単に自分が好きである、なんて視点だけでは済まない。やはりこれは映画の歴史に残る傑作だから外せないでしょ、も考えには入れなければならないし、様々な国の文化を反映した綺羅星の如き名作、傑作、愛すべき佳作が溢れているわけで。その中から3本。ここは私の映画遍歴、ひいては私の人生観、つまり自分自身が問われているのだ、、何もそこまで意気込まずとも良いでしょうが、正直言ってとてもじゃ無いけど3本には絞れなかったので10作品くらい上げておきます。S先生済みません。

アラビアのロレンスLawrence of Arabia(日本公開1963年)

言わずと知れた故デヴィッド・リーンの傑作。複雑な性格の持ち主だったとされる実在の人物をピーター・オトゥールがこれ以上無いのではと思われるほど繊細かつ完璧に演じて圧巻。演技、音楽、映像、脚本総て素晴しいが英国の中東政策のエグさ加減については切れ味が甘い感じがしないでも無い。砂漠の彼方からオマー・シャリフ演じる族長が現れるシーンは恐らく何年経っても語り継がれる名シーンでしょう。ちなみに私は学生時代にロレンス本人が著した「知恵の七柱」をカッコつけて原著で読もうとして挫折した人間です。長過ぎるんだもん。

情婦Witness for the Prosecution(日本公開1958年)

タイロン・パワーとマレーネ・ディートリッヒ、その当時ハリウッドのキングとクイーンと言っても良い存在でした。この二人が共演して監督が希代のストーリーテラー、ビリー・ワイルダーとくれば面白くならないはずが無いけれど、とにかく最初にこの映画を観た時は本当に吃驚しましたね。但し、今やこのくらいのどんでん返しじゃスレた観客は驚いてくれないから、現代の映画作家は実に大変です。脇を固める名優チャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターも忘れちゃいけない。このお二人、実生活では夫婦でした。濃い夫婦だねぇ。

オアシスOasis(2002年)

キム・ギドクは韓国の映画監督。私は韓国映画にあまり馴染が無いし、これは気楽に見られる映画とは到底言えないが驚愕に値する傑作。

性犯罪で重犯歴が有る男と脳性麻痺の女性との恋愛映画、ストーリーのこの部分だけ聞いたら一体どんな展開になるのだと不安に思わざるを得ないし、実際不快な描写も頻発する。しかしながらオープニングを始めとして幾つか実に美しい場面が有り、オリジナリティと示唆に富む。劇中或る刑事の発する言葉によって我々観客は彼と同じ目線でヒロインを観ていた事を思い知らされ、作者から冷たいナイフを頬に当てられたような気分になります。

ミストThe Myst(日本公開2007年)

ホラー映画はあまり好きじゃ無く、特に苦手なのはいきなりドキッとさせるショックシーンが有るような映画です。オジさんは心臓が弱っているのだ。そんな事を言いながらホラー小説の大家、スティーブン・キングの小説は大好きだったりするのが我ながら実に矛盾に満ちているのですけれど。キング小説の映画化は、ラストで麻薬的快感を覚える「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」、「スタンド・バイ・ミー」などホラー分野じゃ無い映画には傑作が多いのですが、何故か不思議な事に本業のホラーでは失敗作が多いのです。もっともまあ膨大な作品の数を誇る多筆な人だから「シャイニング」や、最近無敵の美少女クロエ・モレッツを主演に据えてリメイクされましたが、元のシシー・スペイセク版の「キャリー」など特筆すべき作品も有りますがね。
 数多有るキングのホラー小説の映画化として私が一番恐ろしいと思うのはこの「ミスト」です。風光明媚な湖のほとりに住む主人公一家は、ある晩激しい嵐に襲われます。嵐が過ぎた翌朝、滅茶苦茶に壊れた自宅の修理に子供を連れて近所のホームセンターに向かいますが、対岸に立ちこめた濃い霧が付近を覆い始め、やがて得体の知れない怪物が霧の中から人々を襲い始める。ホームセンターに閉じこめられた人々は、恐ろしい敵だけでは無く狂信的な女の説教によって徐々に理性を狂わされて行きます。この映画でもっとも怖いのは霧の中に潜む異形の生きものより人間の方が余程恐ろしい存在だ、という部分です。衝撃的なラストシーンは「ショーシャンク、、」や「グリーンマイル」も手がけたキングの盟友、フランク・ダラボン監督がひらめいてキングにメールしたら「俺の原作より凄い」と悔しがらせたくらい完成度が高い。度合いから言えばオリジナルの「猿の惑星」くらい凄いです。但し、怖い映画が嫌いな貴方は絶対見ないようお勧めします。
 あれ、4本しか語ってないのにもう紙数が尽きてしまった。この項、次に続く。