Blog黒田院長のブログ
2022.03.03
- 027 覇者の時代
今日聴いていた音楽
「煙が目にしみる」プラターズ 他まだまだ混乱が続いているとはいえ世界がようやくコロナを克服しつつあるこの時期、数日前に衝撃的な出来事が東欧で起きた。ロシアによるウクライナ侵攻である。ロシアとウクライナを巡る様々な政治的やりとりの価値判断や今後の展望については識者の論評に任せるとして、今回の紛争から私が危惧するのは、強大な軍事力を持つ国連の常任理事国が拒否権を嵩にひとたび強烈な意志を持って隣国を侵略したら抑止する事は容易では無い、それが必ずしも善人ばかりで出来ている訳では無いこの世界の眼前に曝け出されてしまったということだ。
お前は何を今更ナイーヴな事を言っているのだ、第二次世界大戦後も世界のあちこちで紛争の絶えた試しが無いではないか、と言われればその通りである。実は犯人が最初から明示されている推理小説のように、答えは我々の目の前にずっと有ったのだ。それでもなおかつ、私には今回の侵略行為が、この世界の有り様が決して野蛮なもので有ってはならない、中世や帝国主義の時代とは異なり21世紀の人類はもっと理性的な存在だと信じたい、そんな建前に縋りついても箱庭の平和を享受したい我々の弱さを曝け出す無慈悲な鉄槌に思えてならない。
正直なところアフガニスタンやイラクやアルゼンチンやアフリカや、その他多くの紛争地域で起きてきたことは私の中ではどうも遠くの出来事というか、何処か絵空事の様に思えていた。それがこと今回の事変に関しては、海を隔てているとはいえ核ミサイルを持つ隣国であるロシアに「かつての栄光有る大ロシア復活」という妄想を大真面目に希求する層が一定数存在していて、矛先がいつ我が国に向かわぬとも限らないという恐れを拭う事が出来ない。
コロナ不安を煽って我々の社会から何かを掠め取ろうとする一部の人々の思惑とは異なり、オミクロン株で若者は滅多に死なない。しかし戦争は子供や若者の命を先に奪っていく。「お前は何を言っている、コロナは現実の危機であり、現在我々を攻撃して来る敵対国家は居ないではないか」と言われれば確かに私自身、一介の町医者風情で有りもしない危機をあたかも現実に有るかの如く吹聴し子供たちを連れ去るハーメルンの笛吹きなのかもしれないし、自分の皮膚感覚が杞憂であって欲しいと切に願う。
かつてナチスの専横を許した英国チェンバレン首相の如く、今回米国バイデン大統領はロシアの軍事行動を事実上容認した。世界警察としての米国のプレゼンス低下、国際社会の事後対応、ますます武力を蓄える中国の台頭、一連の流れから私は、再び力によって理を捻じ曲げる、まるで先祖返りの様な覇者の時代の到来を、そしてそれが熱狂的支持をもって迎えられる事を恐れている。