Blog黒田院長のブログ

2021.12.22

025 初心

今日聴いていた音楽
シングルベッド
シャ乱Q 他

ここ数ヶ月というもの、自分が何で医師という生き方を選ぶに至ったかのきっかけを折に触れ考えていた。病に苦しむ人を助けたい、なんていう建前から、もしかしたらお金が儲かって女性にもててフェラーリだって買えるか、なんていう下衆な本音迄、理想と煩悩のごちゃ混ぜな自我の奔流に押し流されて今の自分がここに漂着したと言えるかもしれない。
以前「019 天麩羅蕎麦」という綺麗事をこのブログに挙げた。多分今までも、これからも医療分野を志す人々の根底には「誰かの役に立ちたい」という尊い心根が有ると、世俗に塗れて素直になれぬ、このひねくれた私とて何とか信じていたいものである。
数日前に大阪の曽根崎で多くの犠牲者を出した痛ましい事件が有った。亡くなられた人はきっと皆、これからの人生で実現したい事が有ったのに違いないが、たったあの数分間その場に居合わせただけでその夢を断たれた。犠牲となった方々に心からの冥福を祈りたいと思う。容疑者が火を放ったのは精神科のクリニックだそうで、医師と患者の間で生じた治療上の齟齬が怒りとなって暴発した原因と考えられているとのことだ。医療側と患者側、幾ら双方が努力しようと埋められなかった溝が存在し、どんどんとその溝が拡がってあんな恐ろしい事件に至る。我々医療側からの立ち位置から言えば、どれだけ努力しようがどれだけ学問をしようがこの溝が埋められることはないのかもしれず、また痛ましい犠牲者が出ることも避けられないのだと覚悟する。それでもなおかつ、吹けば飛ぶような個人クリニックの院長である私が、今この瞬間にも自らの健康状態に怒りを抱えている人々に届けば良いと思うのは、当たり前だが医師は決してあなたの敵では無いということだ。我々が共に戦うべき相手は我々の心身を蝕む病そのものであって、彼奴らの出方によっては防衛戦を強いられる時もあれば一気に攻勢に転じる時もあろうが、決してあなたの治療にあたる医療者やあなたの看病をする介護者は敵では無い、その一線だけは越えないで欲しいと、私が今更言ってもどうにもならないけど願う。
私が埋めようと思っても出来ないこのどうしようもない溝を、火災に巻き込まれて亡くなられた精神科クリニックの院長先生もきっと埋めようと努力されていたのだと確信すると同時に私自身も、病に苦しむ人々を救いたいと願った頃の、医療を志すに至った初心に立ちかえるべきだなと改めて自戒する。
こうやってまた最後に綺麗事を言ってしまった。どうしても格好をつけたがる、これは私の宿痾かもしれない。まったく因果な性分だ。