Blog黒田院長のブログ
2021.09.03
- 022 ランク社会
今日聞いていた音楽
フランクシナトラ「酒と薔薇の日々」など米国発の動画配信サイトNetflixの膨大なコンテンツ中、これが見られるだけでも十分加入する価値があると個人的に思っているブラックミラーと言う英国製の連作ドラマがある。1話完結で、テイストとしては日本の「世にも奇妙な物語」に似ていると思うのだが、現代よりもう少しテクノロジーが進んだ近未来で、人間の果てしない欲望が生み出す悲喜劇を英国流の皮肉を混じえつつ描いている。
どのエピソードも十分面白いが、私のお勧めは「サン・ジュニペロ」「殺意の追跡」「クロコダイル」「ホワイト・クリスマス」「宇宙船カリスター号」辺りであろうか。特に「サン・ジュニペロ」はもう、我々の世代には刺さりまくる。とにかく見てくれとしか。
エピソードの一つに「ランク社会」というのが有って、世の中の森羅万象、自分の行動全てがランク付け数値化され、就ける仕事や収入、入れるコミュニティ、付き合う友人、全ての社会的地位が決まるグロテスクな世界を描いている。何せランクが下がると良いレンタカーすら借りられないのだ。お隣の国、中国では実際にアプリで自分のステータスを数値化して社会的地位を決めるシステムが実用化され広く普及していると聞く。流石は共産主義国家だ。国民を統制するのに隙が無い。
先日、メンタリストなる肩書きの人が「ホームレスの命なんかどうでも良い、猫好きなんで猫の命の方が大事」とか公言して大炎上したそうだが、医者になって30年ちょい、エリート層からホームレスや生活保護の人まで、それこそありとあらゆる社会的階層の患者さんを拝見してきた身からすれば、いくら「ランク社会」的スペックが高くとも人間とは心身の歯車が一度狂えばいつ最低ランクに陥ってもおかしく無い生き物だと痛感する。良く考えれば当たり前の話で、我々の生命活動を支えている筋骨系、脳神経系、消化器系、呼吸器系、そして精神的平衡。これら全ての生命維持システムが調和を保って円滑に働くこと自体が宇宙の奇跡のようなものだ。自分がいつ何時それらの完璧なバランスを損なうかという恐れを心の奥底に抱いていればそうそうイキった発言は出来ないだろうが、まあきっとそれが若いってことで、そういう危うい言動に違和感を感じるのは私が老いて健康不安が道の先に見えてきた証拠なんだろう。と同時に社会通念から著しく逸脱した行動や言動がそれこそ分単位で衆目に晒され、顔の見えない無数の非難が全身を火矢のように貫く現代社会に恐ろしさを感じる。少なくとも私は、自分が最高潮に生意気盛りのクソガキだった頃にTwitterやらSNSやら何やらが無くて本当に良かったと思っている。
あくまで個人的意見だが、ランク次第ではコロナ重症でも入院出来たり出来なかったり、端的に言えば個室料金などの追加負担を払える層と払えない層と、社会の格差は拡大している様に感じる。我らを縛るランク付けの精度はまだ粗く、支配層たる人間の恣意的な忖度に左右されているが、AIの進化につれ手塚治虫の 「火の鳥未来編」などで描かれたごとく確実にその肌理は細かくなるだろう。炎上したメンタリストさんも、後輩を殴ったら意外や意外、最下位チームから優勝争いしているチームに栄転して試合に出られても、ランクが上なら生き残れてこれから数値を上げる事も出来る。敗者復活のシステムは勿論重要だし無くてはならないと思うが、数値化されたランクで生死さえも決まる、我らが行き着く先はユートピアかディストピアか。私は最大限の注意を払って見届けたいと思う。