Blog黒田院長のブログ

2021.05.19

018 花道

今日聴いていた音楽

菊地雅章 ‘Hanamachi’ 他

花道(はなみち  1 歌舞伎の舞台設備の一。観客席を縦に貫いて舞台に至る、俳優の出入りする道。

2 《平安時代、力士が花をつけて入場したところから》相撲場で、力士が支度部屋から土俵に出入りする通路。

3 世の注目や称賛が一身に集まる華やかな場面。特に、人に惜しまれて引退する時。「引退の花道を飾る」)。

我々の住む文京区でもいよいよコロナワクチンの接種が始まった。4月30日の初回申し込みはワクチンの割り当て数が少ないこともあって、電話もネットもつながらない混乱状況だったようだ。5月14日とその次の受付分はかなり余裕が有るそうなので、接種対象者の方々は是非私の駄文でもだらだら読んでリラックスしてもらいたいものである。

またぞろ全くワクチンとは無関係な話でいつもながら誠に恐縮だが、私が人生で初めて歌舞伎を見たのは何ともう35年も前の 1986年、銀座の旧歌舞伎座で上演された通し狂言「仮名手本忠臣蔵」だった。そんな昔の上演記録がネットですぐに分かるのだから便利な世の中だ。恐らくこれから先も語り継がれるであろう花薫らんばかり絶頂期坂東玉三郎、片岡孝夫のお軽勘平、富十郎の高師直、団十郎の由良之助、今思い返しても何とも贅沢極まりない配役だった。

「道行旅路の花婿」花道の七三(途中ってこと)で旅姿のお軽が笠を脱いだ瞬間、この世のものとはとても思えないくらい美しい玉三郎さんの姿に、まるで水面に波紋が拡がる如く花道近くの観客から息を呑む気配が伝わっていき、一階席の花道と反対側に座っていた私の所へその波が届いた時、人間は有り得ないものを見た時背骨に電流が走るというのを体感した。その美に痺れて以来私は芝居好きとなり、幾多の素晴らしい舞台に出会うことが出来たのだから、あのお芝居を観に連れていってくれたわが大学の落語研究会顧問、化学のT教授には幾ら感謝してもし足りないと今でも思う。

何故今更こんな思い出話をわざわざ書くのかといえば冒頭に挙げた菊地雅章さんの遺作、Hanamichiを聴いてしまったからだ。2015年に肺癌で亡くなったジャズピアニストの最期のレコーディングがどういう経緯か今年ようやくレコードとCDでリリースされたらしい。人生の最期でもなお自分と向きあう音楽家とヴィンテージのスタインウェイピアノが奏でる音楽は甘く暖かく、厳しく意地悪く、笑うと思えば泣き、高揚すれば次の瞬間にはどん底まで叩きのめされる。音楽によってかき立てられる情動の全てが有り、その背景には病気と闘う音楽家の極限までの透き通った意思が有る。ホント、何なんだこの音の世界。気分が落ちたり、どうしようも無く疲れた時に私はこのレコードを絶対的にお勧めしたい。

ああ、また医療の役にも立たぬしょーもない感慨を垂れ流してしまった。済まぬこってす、、。

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