Blog黒田院長のブログ

2019.12.22

005 不眠

今日聴いていた音楽
A time for Ballads ウィリアムス浩子 他

 近年、外来を受診する患者さんの話を聞いていると日本人の体温は下がっているのじゃなかろうかと思えてならない。漠然とした印象だけで科学的な裏付けなど何も無いのだが、「私は平熱が35度台なので、36度でも熱があるように感じて」注射でも打って欲しいと訴える人がひきもきらない。さすがにその体温で解熱剤を投与するのは止めた方が良かろうと話して納得してもらうしかないのだが、それまでが一苦労だ。負けず劣らず多いのが不眠を訴える人の数で、それも昔のような高齢者の睡眠障害だけでは無く、20-30代の若者が極めて多いのに毎度驚かされる。或る時、仕事が不規則で夜勤も多く、睡眠をとる時間が夜だったり朝だったり滅茶苦茶になっているうちに全然眠れなくなったと虚ろな目で不眠を訴える若い女性の話を聞いていたら、心療内科でとてつもない量の睡眠薬を服用していて、それでも眠れないのだと言う。睡眠薬を一度も飲んだ事が無い人に同じ量をもし投与したら確実に三日は目覚めないのじゃないかというくらいの種類と量だ。率直に言ってまず就労時間を何とかしない事には根本的な解決にはならないと思うのだが、稼ぐ為に仕事を辞めるわけにもいかない以上、彼女自身どうしようも無いのだろう。
 確かにビジネスってものは、そこに収益性があると思えば夜討ち朝駆け当たり前、生き馬の目を抜くって事は馬が休んでいる間にこっそり抜くのであろうから正月だろうがお盆だろうが常に24時間営業のレストラン、居酒屋、バー、コンビニエンスストア、ネットカフェ、エトセトラ、エトセトラ。当然それを支える人々の生活も夜間にシフトして行くわけだが我々の身体の体内時計は皆が思っているより遙かに鋭敏で、そう上手く夜行性に適応出来てはいないから、いくら疲れていようが陽光さんさんの真っ昼間にさぁ寝ろ、やれ寝ろと言われたところですぐに眠れるわけも無し。でも消費者側は夜中だろうとあらゆるものが手に入る快適な暮らしは手放せない。本当にこれで良いのかと思いつつ、あれも欲しいこれも欲しい、便利さに慣れた身体は後戻り出来ない。
 当然の事ながら我々医師に患者さんの社会生活まで介入する権利は無いから、仕事を変えろだのせめて昼間の勤務に切り替えろだの言ったところで却ってご本人を悩ませる事になりかねない。決してその投薬が本人の為にはならないと知りつつも膨大な睡眠薬を処方せざるを得ない時にはつくづく自分たちの無力を感じる。
眠れないと訴えるあの時の彼女の虚ろな瞳に何が映っていたのだろうと考えざるを得ないのだ。