Blog黒田院長のブログ

2019.11.18

004 依存症

都内で手広く酒の宅配業を営んでいる会社の社長さんと話をする機会があった。ただ漫然と売るだけでは無く、アルコール類が垂れ流す様々な害悪、例えばアルコール依存症に対して何か出来る事が無いのだろうかと彼が真剣に考えておられるのを聞き、人柄を窺えたように思えた。
アルコールが元で肝硬変になったとする。病状が進み、いよいよまえばこれが肝硬変に伴う食道静脈瘤の出来るきっかけだ。世間が21世紀になろうが人間の身体は起立歩行を始めた頃から大して変わらないわけで、酒浸りの毎日を送っていたら誰だってある日血を吐く危険性がある。いつかそういう終わりを迎えると分かっていても止められない、いざその段になって慌てて治療を始めても間に合わない。
アルコール性の肝硬変で食道静脈瘤を発症し、破裂性の出血で救急搬送される。緊急内視鏡で何とか血を止め、救命出来たとする。二度と酒は飲みませんと誓って退院していった当の本人が、程なく退院祝いなどと飲み仲間に唆され酒を飲んで再吐血なんてのは実に良く経験するケースで、職業柄とは言え自分たちが一体何をやっているのだろうと無力感に打ちのめされたものだ。
自分にとってアルコールが害毒であると認識してすっぱり止められる人は、糖尿病で食事管理が必要な患者さんのうちで本当に厳格な自己管理をやれる人の割合とほぼ変わらない。所詮、意志の力で欲望を抑えられる人間ってのはせいぜい十人のうち一人か二人というところでしか無い。覚醒剤や脱法ドラッグの類も変わらない。年齢が高くなればなるほど抜けるのは難しくなる。再発のきっかけは孤独、孤立だ。
アルコール多飲も含めて我々が真に依存症を克服出来る時代が来るのだろうか、もし出来なければ人類の活力は随l分殺がれるに違いない。我々医師は勿論、医薬に携わる全ての人々がその対応に忙殺される時代がもうすぐやって来る。
冒頭の社長さんに一言。貴方が売らなければ良いなどと割り切れる程単純では無い以上、アルコール依存症患者の健康に関しては貴方がそこまで気にする事では無いと個人的には思う。しかしそれなら一体、誰が気にすべきなのだ。我々は有効な対処策をどれだけ持っているのだろう。

今日聴いていた音楽

一青窈
歌窈曲