Blog黒田院長のブログ

2021.02.18

012 大人

 今日聴いていた音楽
Little Glee Monster x Pentatonix ‘Dear My Friend’ほか

もう還暦に近づいて来た我が身に止めようと誓った事は幾つか有って、電子メールに絵文字を入れるのはやめよう、ってのもその一つ。何と詰まらん誓いであろうかと冷やかすのはおやめ下さい。いつ頃の話かどこやらの高校だったか、教頭先生が教え子にセクハラメールを送って降格されたという事件があった。テレビニュースに登場したのは顔にモザイクをかけられた教え子。
「先生から絵文字入りで、最近メールくれなくて寂しいな、とかっていうメールが来るの」
なんて、ヘリウムガス吸ったような声で証言しているのをガハガハ笑い飛ばした後、ふと気がつくと自分も変わらん様な気がして笑いも一気に醒めてしまったのだ。いや、女子高生にメールしてないけどね、してませんてば(ここで以前の私なら渾身の絵文字である)。
 当たり前かも知れないが我々より前の世代では絵文字なんて代物は無かった。対談などで「、、、、ですよね(笑)」ってのは確かにあったが、手紙にだって小説にだって入らなかった。悲しみを伝えたいのか笑いを届けたいのか、書き手が文脈と語調で判別出来るようにするのが矜持なわけで、そこを取り違えて文中至る所絵文字だらけ、という状況になると途端に文面が幼稚に感じられてしまうのは確かに否めない。年齢相応ならともかく、この歳でそれは如何なものか、というのが今回の絵文字封印に至る顛末なのだ。ここでまた話は大いに脱線するが、(笑)だのの小細工を弄さず読者の笑い度合いをコントロール出来た文章の達人と言えば、中学高校の先輩ってのもあって私が勝手に文章の師と仰ぐ吉行淳之介さんだ。「砂の上の植物群」に代表されるような恐ろしい切れ味の小説群も勿論だが、洒脱極まるエッセイやゲストの人となりを活写して飽かない対談集は、今読んでも全く古びていない。読者の頬に浮かぶ笑みが微笑みなのか苦笑なのか爆笑なのか、文字だけで自在に制御する技は何とも、是非アァタも読んで体験して下さいとしか言いようが無いものだ。
 そもそも自分の日常、常住坐臥をつらつら反省するに、ほぼ還暦を迎えた人間としてはかつての先達に比べて遥かに幼いのではなかろうか、未熟なのではなかろうかという忸怩たる念を払う事が出来ない。別に文豪だ傑物だと言われる人々を引き合いに出すわけじゃ無く、その辺の市井人も遥かに今の我々より大人で、そういうちゃんとした大人に社会ってのはどんな仕組みになっているかを教わってきたような気がする。そんな粋な大人にいつになったらなれるのだろう。自分にも正直あんまり時間は残ってないのだけど。