Blog黒田院長のブログ

2026.05.24

069 この混沌の時代にレコードを聴くということ

今日聴いていた音楽
‘Cha Cha loco’ from Album ‘Body and Soul’
Joe Jackson他

 皆さんはゴールデンウィーク、いかに過ごされたであろうか。
私は二人の友人に招かれて音楽を聴き、その後は自室で酒を飲み、音楽を聴き本を読み、映像を楽しむってのを繰り返していた。要するにいつもの生活を送っていたわけだ、実に他愛無い。
 自分の好きな音楽を、気に入ったレコード、CD、音楽ファイルを、悩み考え抜いた自分のオーディオシステムで鳴らす。当たり前のようであるが、決して当たり前ではない。そこに至るまでの紆余曲折や葛藤、もちろん金の工面だって避けては通れないし、もうそれこそ山のように問題点はある。そうやって苦労しても良い感じに鳴ってくれない夜もあればまさしくこの音だと思った次の瞬間に何故かトラブルが起きたりする。ままならないものだ、人生の他の事象と同じように。
 A氏の奏でるのは間違い無くそういう類の迷いが一切無い音楽で、我思う、故に我有りという独自の世界である。彼のところで鳴っている音楽は繊細でありながら時に豪胆であり、厳しくも優しいA氏独特の宇宙がそこに有る。数日後に新装なった埼玉県深谷市のオーディオメーカーのショールームにお招きいただいた時には現代的な解像度の高さと昭和の熱くてぶっとい音楽に酔わせて貰った。これを読んでいる方々にはスピーカーの名前など何のこっちゃか分からんと思うが、英国タンノイ社の不朽の名作スピーカーGRFも、米国マッキントッシュ社のXRTから流れて来るそのどちらの音楽も本当に素晴らしかったのだ。
 そして、最大の衝撃は常に最後に訪れる。私の家で聴かせて貰ったレコード再生、リトアニアの天才エンジニアが作った音楽針、いわゆるカートリッジである。レコードで音楽を聴くにはレコードプレーヤーが必要なのは言うまでも無いが、レコードの細かい溝を拾って音楽の信号に変えるカートリッジという部品とそれを取り付けるアームが必要となる。それぞれ各パーツに技術者たちの深い洞察とレコード再生への情熱が籠められており、その純粋さに我々リスナーは魅了されるのだが、溝の振動を光素子で拾って音楽信号に変える「光カートリッジ」という、かつて豆電球の熱と電球切れ故に熟成し得なかった技術を現代のLEDで甦らせた結果、世界で多くの追随者を産んでいる。
 とんでもない光カートリッジと、そいつの動作原理をキチンと回路設計に反映させた光フォノイコライザーが合体した時、今まで聴き慣れていたレコードがまるでマスターテープを直接再生しているかの如く激変したのだ。そこにはオーディオ的な快楽、やれ高音域がどうとか低音がどうとか、録音状態が良いとか悪いとかもうそういう瑣末事が全て吹っ飛んだ先の、純粋に楽しめる音楽が眼前に拡がる稀有な景色だった。確かにこのご時世、しっかりしたシステムで音楽を楽しむにはそれなりにコストがかかる事は酸いも甘いも噛み分けたオッサンたる私でも承知している。その上でここまでの情熱を小さなカートリッジに籠め、その電気信号を絹のテクスチャーに変換するイコライザーアンプの開発者に私は満腔の敬意を捧げる者だ。そしてご多忙の中セッティングに馳せ参じて下さったAS氏にも感謝、感謝である。旧態依然と切り捨てるにはあまりにも深く楽しいアナログレコードがもたらす音楽世界を、私は多くの人に体感して貰いたい。何故ならこれはまさしく明日への活力をもたらし、勇気をくれる前向きなサウンドだと感じるからだ。