Blog黒田院長のブログ

2022.04.30

032 癌治療

今日聴いていた音楽
Sorry seems to be the hardest word
Ray Charles feat. Elton John 他

 つい最近のことであるが、私の尊敬する知人が癌治療クリニックなる詐欺まがいの商法に引っかかった。
その方は或る疾患からどんな痛み止めも効かない慢性的な激しい腰痛を抱えられており、結果として肉体的、精神的な弱味につけ込まれたのだ。私が医師として許しがたいと思うのは、その方は癌ですら無く、あまつさえその医師は自身がオーダーした画像診断で癌では無い事を知っていたにも関わらず癌だと宣告して高額な保険外治療を施した事だ。癌じゃ無い人に、そもそも効き目すら怪しい癌治療を施して効く訳も無いのは自明の理だ。
 この仕事を続けて経験を積むと、そういうクリニックのホームページを見ただけで胡散臭いとすぐピンとくる。曰く、極度に専門的過ぎずなんとなく難しそうであたかも効くような文言を並べる。あの業界の定番は「光」、「レーザー」、「ビタミンC」、古くは「自己免疫」などなど様々だが、ちょこっと新しそうな文言を交えるのがミソのように思う。最近ならさだめし癌遺伝子、癌抑制遺伝子とかだろうか。それらに共通して言えるのはHPに治療効果の臨床データが全く載って無い、もしくは効果があると自称していてもきちんとした医学雑誌に掲載された検証可能なデータでは無いなど、我々の目から見ればどうしてこんなのに引っかかってしまうのか悲しくなる様な代物だ。あのさ、治療前の進行癌の画像と治療後の綺麗に治ってる画像を並べられても、その間の検証が全く無いじゃん? もっと意地悪言っちゃうと治療前と後の画像が逆だったり違う組織の顕微鏡写真だったりするんじゃないの?
 もう少し巧妙になると、「我々の治療がこれだけ効くのに学術論文で取り上げられないのは、癌が治ってしまったら飯の種に困る医学会の陰謀である」だの、自費診療で多額の金をふんだくるための「治療費が自費のため高くなってしまうのは心苦しいのですが、コストがかかる中で少しでも多くの患者さんを救いたくてやむを得ず」などなど、盗人にも三分の理たぁよく言ったもんだというお題目が並んでいる。
 まだ病院で外科勤めをしていた頃、そういう個人営業の癌クリニックから六十代の女性患者が送られてきた。進行乳がんで既に肺転移をきたしており手の施しようがない瀕死状態だったが、その人は最初に乳がんの初期段階で発見され部分的切除など治療選択がたくさんある時点で、免疫を向上させる食事と規則正しい生活によって癌を治療すると言う選択肢を選んでしまった。なぜそんな治療を選んだのかとその人に聞いたとき、「あの先生は、僕があなたの乳がんを治してあげる、と私を優しく抱きしめてくれたのです。他には誰もそんな事はしてくれませんでした。」そんな事で、、。まだ若くて青かった私は怒りのあまりそのクリニックに電話して今までの診療経過を送って来いと言ったが、その院長から帰って来たのは「ご本人がその治療を選んだのだ」という返事と、1分も費やせば書ける紙っぺら一枚のいかにも適当な診療情報提供書だった。そりゃそうだよな。もうその女性は自分にお金を貢いでくれるカモじゃ無いものね、。
 ネットが普及し、いくらでも有益な癌治療情報が得られる現代でも、一歩選択を間違えば結果は全く違うものになる。根底に現代医療への強い不信感が有るのは残念だが否定できない。私の立場から弁護すれば、癌治療病院の現場はあまりにも忙しくて、医師も看護師も患者さんの疑問や不安を解消する十分な説明の時間が取れないのも確かだ。でもね、あなたがかかっている癌の総合病院から「見放された」と感じた時、私はもう一度ご自分に問うて欲しいのだ。
 あなたがこれからそのナンチャラ癌クリニックとやらで受けようと思っている治療は効果に対して本当に適正な価格なのか、その金額はあなたの持てる資産で賄えるものなのか。
 そして、それでも契約書にサインしようとしているあなたへ最後に言いたい。あなたの子孫にとって有益な筈のそのお金が、あなたを単なる金蔓としか思っていないインチキ医者の懐を肥やすのは悔しく無いですか?